ふくしまのりんご・ももの生産販売

赤い実の話

ホーム > 赤い実の話 > 果樹栽培 > 21世紀の果樹栽培への挑戦

21世紀の果樹栽培への挑戦

福島県の県北地方は、全国でも有数のくだものの産地です。美味しいくだものを生産する原点は、この地域自慢の「気候と風土」。産地は盆地の山裾に位置し、その土壌は果樹に最適な山の土です。夏冬を通して適度な寒暖の差は、美味しい実のなる樹の成長を助けます。
また、盆地特有の盛夏の豊かな陽差し、高温と乾燥した空気、朝晩の温度差は果実の甘さを増やしてやみません。
初夏のサクランボ、夏の桃、秋のナシやブドウ、そして晩秋の蜜入りりんごなど、季節ごとに新鮮なくだものを楽しむことができます。
「ふくしまくだもの広場」は美味しい果実を育むのに必要な要素、すべてに恵まれたところなのです。
果樹栽培は病害虫との戦いの毎日です。美味しいくだものを育てるためには、害虫だけではなく細菌や真菌(カビ)あるいはウイルスといった病原微生物とも戦わなければなりません。そのためには、使い方や選択に充分注意しながらも、必要最小限の農薬を使う必要があります。その一方で、消費者の皆さんには少しでも 「安全なくだもの」を届けなければなりません。生物防除(バイオロジカルコントロール)としてフェロモンなどの生理活性物質の応用などで、農薬に依存し過ぎた農業は卒業しなければいけない、それは「ふくしまくだもの広場」の願いでもあります。
おいしいくだものづくりにはもうひとつ、和やかな気持ちも込めてつくっています。

A. 果樹栽培研究の最前線

1. 病害虫との戦い

質問コーナーでも簡単に説明しましたが(果樹に虫はつかないのですか?への回答をみてください)、果樹栽培は病害虫との戦いの毎日です。美味しい桃やリンゴを育てるためには、害虫だけではなく細菌や真菌(カビ)あるいはウイルスといった病原微生物とも戦わなければなりません。そのためには、使い方や選択に充分注意しながらも、必要最小限の農薬を使う必要があります。その一方で、消費者の皆さんには少しでも 「安全な赤い実」を届けなければなりません。農薬に依存し過ぎた農業は卒業しなければいけない、それは「赤い実の熟れる里」の願いでもあります。

2. 農薬の使いすぎの反省

昨年は違法農薬の使用が話題となり、農薬の使用は新たな反省期を迎えています。その理由は色々ありますが、大体は次のようなものだと思います。

  1. 化学的に合成された農薬が効かなくなってきている
    (使い過ぎで薬剤に抵抗性の病害虫が増えてきている)。これはヒトで抗生物質を使いすぎて院内感染やMRSAなどの薬剤耐性菌が問題になっているのと同じですね。
  2. 消費者が減農薬や有機栽培の安全な食品を望んでいる
    飽食の時代が終わって、消費者が体によい食べ物を希望するようになってきたのですね。当然といえば自然の流れ、でも安全なものを食べるためには、見かけや形だけにこだわる消費者も考えを変える必要があります。
  3. 環境や自然に優しい農業が必要
    農薬の使いすぎは自然や環境にとっても好ましくないという考えが広まってきています。未来の子供達のためにも環境に優しい農業に変わっていかなければなりません。でも、これを実践するためには消費者の協力も必須です。ちょっとくらい虫が食っていても構わない、賢い消費者が増えることを祈ります。
  4. 農家自身から減農薬の要望が高まっている
    農薬を使いすぎて健康に被害を受けるのは農家自身なのです。農薬を使わない農業を一番まちのぞんでいるのは消費者のみならず畑ではたらく私たち自身です。
3. 病害虫の生物的防除(バイオロジカルコントロール)

そこで登場してきたのが、農薬を使わずに生物に関連する素材を用いて病害虫を防除しようという方法で、生物的防除(バイオロジカルコントロール)と呼ばれます。いろいろな方法が研究されていますが、大きくわけると

  1. 天敵を使って果樹の害虫を防除する
  2. フェロモンなどの害虫の個体間に働く生理活性物質を利用する
  3. 病害虫に対して抵抗性の品種を作る
  4. 遺伝子工学を使って病原微生物の働きを弱めてしまう
  5. 有用昆虫を活用する

などの方法が世界中で研究されています。

4. 天敵とは何か

果樹栽培では病害虫は頭痛のタネですが、自然界はよくしたもので、その病害虫に対する天敵(英語ではNatural Enemy)が必ず存在します。その天敵を上手に使って農薬を使わないで害虫をやっつけようという研究が世界で進められています。天敵と一言でいわれますが、実は色々なタイプがあって、大きくわけると、捕食者(英語でPredator、シュワちゃんの映画に“プレデター”がありましたね、アレですよ)、捕食寄生者(英語でParasitoid、例えば寄生蜂や寄生バエが知られています)、微生物天敵(Microbiological Natural Enemy)に分けることができます。捕食者は文字通り悪い虫などを捕まえて食べてくれるものです。捕食寄生者は害虫に卵をうみつけて結果として殺してくれるもの。微生物天敵は病害虫だけの伝染病ですね。自然界にはひとつの害虫に対して必ず複数の天敵がいますので、このなかから生物農薬として使い易いものを選び出し、実用向けに繁殖させるのが天敵研究の中心です。

5. がんばれ天敵クン

天敵は古くて新しいテーマです。その実例を少し紹介してみましょう。果樹栽培では100年くらい前から、例えばミカントゲコナジラミに対するシルベストリコバチ、リンゴワタムシに対するワタムシヤドリコバチなどの天敵が発見され、一部では実用にも用いられ、それなりの効果もあげています。

クワコナカイガラムシという害虫はリンゴの実に被害を与え、これを防ぐために有袋栽培(袋かけ)が盛んになったりしましたが、それでも充分には被害を防ぐことはできませんでした。そこで、この害虫に対する天敵を探す研究が行われ、クワコナカイガラヤドリバチという天敵がみつかりました。このクワコナカイガラヤドリバチは、1970年に日本で最初の生物農薬「クワコナコバチ」として農薬に登録され一度は全国で利用されたりしました。その後、販売が中止され農薬登録も失効したのですが、この寄生蜂はリンゴ園の野外にすでに定着しており、現在でも減農薬で栽培した場合にクワコナカイガラムシの増加を防ぐ大きな要因になっていると言われます。このような天敵は果樹生産地において自ら定着,増殖して害虫の増えるのを防いでいて、天敵の永続的利用法と呼ばれています。これに対し、天敵を人為的に放して一定期間だけ有効に働かせる方法を周期的放飼法と呼びます。

リンゴやモモに被害を与えるハダニ類の主要な天敵として、捕食性ダニ類捕食性昆虫があります。捕食性ダニ(ダニを食べるダニなんて驚きですね)は捕食性昆虫に比べて捕食能力は低いと言われます。しかし、ハダニ以外に花粉やカイガラムシの幼虫を食べても生きて行けるので、エサとなるハダニの発生が比較的少ない果樹でも生育できるのが特徴です。果樹園で何もしないのにハダニの発生が少ないのは、この捕食性ダニが頑張ってくれているからだと言われています。次は捕食性昆虫の特徴です。例えばケシハネカクシというハダニにの天敵がいます。この捕食性昆虫はハダニを食べることでしか生きていけないので、ハダニの捕まえて食べる力は捕食性ダニにくらべて旺盛です。ということは、ハダニの数が少ない時には果樹園には姿を見せず、ハダニの葉っぱに寄生する密度が高まると周辺から飛んで来て食です。果樹園でハダニが多発したあとに急速に密度が低下するのは、主として捕食性昆虫の働きによると言われています。

6. 微生物天敵

わかりやすく言うと「毒をもって毒を制する」というのが微生物天敵です。病害虫にだけ感染するカビや細菌などの微生物を使って害虫をやっつけようという試みです。昆虫には昆虫に寄生性する糸状菌(カビ)、細菌、ウイルスなどがあります。糸状菌ではゴマダラカミキリやキボシカミキリに対するBeauveria brongniartiiと言うカビが発見されて、これを製剤化したものが生物農薬として登録されています。モモの大敵であるモモシンクイガに寄生するセラチア菌という細菌も知られています。ウイルスではモモシンクイガやハマキムシなどの鱗翅目と呼ばれる害虫に感染する穎粒病ウイルスというのが知られています。しかし、これらの研究はまだ始まったばかりですから、これからの研究が必要です。そして微生物天敵は、農薬などとくらべ速効性は低く、も害虫に感染してから死亡させるまでに時間がかかります。ですから発生した害虫を防除するのに使うというよりも、害虫の予防的な見地から活用が期待されています。

7. フェロモンなどの生理活性物質の利用

生物防除(バイオロジカルコントロール)として天敵より実用化が進んでいるのがフェロモンなどの生理活性物質の応用です。生理活性物質というとなにやら難しく聞こえますが、要は害虫や虫たちが情報を交換するのに使っている化学物質だと理解してください。それを人為的に使って害虫間の情報交換を撹乱させて、交尾できなくさせたり、誘き寄せて殺したりというのが生理活性物質の利用方法です。

昆虫の間で情報として働く生理活性物質には、同種の虫たちのに働くフェロモンと異種の個体間で働くアレロケミカル(他感作用物質)の2種類があります。アレロケミカルにはさらに、その物質を使って発信する側とその情報の受信者側からみて、その情報が有利に働くか不利に働くかによって、アロモン、シノモン、カイロモン、アンチモンに分類されます。

カイロモンは天敵を誘き寄せる作用を持つもので、果樹害虫に対する防除資材としても注目されていますが、まだ実用化には至っていません。合成性フェロモンは害虫の防除に有効なことが判明しており、その利用法には大量誘殺法交信攪乱法という方法があります。しかし、大量誘殺法では害虫の増殖を妨げるほど雄成虫を誘殺することが難しいので、果樹では使われていません。交信攪乱法とは、メスの出す性フェロモンを合成したものを果樹園の随所に設置することで、オスが何処に行っていいのか判らなくなり、結果的にオスとメスを交尾できなくさせて害虫の繁殖率を低下させるものです。

モモシンクイガ、ナシヒメシンクイ、キンモンホソガ、ミダレカクモンハマキ、ウメの害虫のコスカシバなどでフェロモンを使った交信攪乱法の効果が明らかにされています。すでに広く実用化・市販されていて、例えばリンゴの害虫のシンクイムシ類(モモシンクイガ、ナシヒメシンクイ)、キンモンホソガ、ハマキムシ類(リンゴコカクモンハマキ、リンゴモンハマキ、ミダレカクモンハマキ)に対しては複合性フェロモン剤コンフユーザーAという複合性フェロモン剤が市販されています。モモ害虫のシンクイムシ類、モモハモグリガ、ハマキムシ類(上記ハマキムシ類の他にチャハマキとチャノコカクモンハマキも対象)に対してもコンフューザーP製品があります。リンゴ及びモモで広範な研究で防除効果が認められていて、従来の害虫防除のやり方を減農薬へと変えて行く有力な手段として注目されています。もちろん「赤い実の熟れる里」でも、早くからこれらを使用して減農薬に努めています。

B. 眼でみる害虫と天敵の戦い

1. 捕食性ダニの活躍
2. アブラムシと戦う天敵たち