果樹園について
果樹園の水やりはどうしているの?
赤い実の樹の性質を考えると面白い質問ですね。平地では比較的容易に水を得ることができますから、必要な時はスプリンクラーなどを使って潅水します。モモでは、春先から梅雨前までの乾燥が強い時や、収穫後に乾燥が続いて樹の貯蔵養分の貯えに悪影響がでるような場合には潅水をおこないます。しかし、モモやリンゴは本来乾燥地域で生まれたものですから、よほどの旱魃でもない限りあまり水やりは必要としません。モモやリンゴは水はけの良い土地を好みますし、水をやりすぎるとむしろ根によくないのです。また出荷直前に雨が降ると実が水分を貯めすぎて糖度が落ちてしまいます。乾いているほうが良いのです。
山間地の果樹園では水はあげることができませんし、「赤い実の熟れる里」でも山間地帯にあるモモ畑などでは一切水はあげません。すべてはお天道様にお任せですね。それでも充分美味しいモモが採れるというか、むしろ美味しいモモが採れるのです。また、モモではとくに出荷直前に雨が降ると実が水分を貯めすぎて糖度が落ちてしまいます。出荷前の2 ~3週間くらいは、雨が降らずに乾いているほうが良いのです。北海道の農家では「日照りに不作なし」という言い伝えがありますが、トウモロコシやタマネギなど乾燥を好む作物の栽培地域と通じるところがありますね。
果樹園にあう土質ってどんなもの?
果樹栽培に適した土はどんなものかを考える時、大きく分けて二つの性質が大切です。
ひとつは樹の生育に必要な養分がバランスよく含まれているかという 1) 生物学的な性質 です。これは施肥によって必要な調節をおこないます。次に丈夫な根を張り、ゆたかに葉を繁らせる基礎となる 2)物理・化学的な性質 です。このふたつについてモモの樹を例にとってわかり易く説明してみましょう。
モモの樹は非常に成長の早いのが特徴です。この早い樹の成長を支えながら美味しいを実をならせるためには、
- 樹の貯蔵養分が効率的に使えて春先からの初期発育を盛んにさせる
- 葉っぱを豊富に繁らせ、根をしっかりと張らせる
- 実の収穫後に樹に充分に貯蔵養分を貯えさせる
ことが大切です。
そのためには、土の 生物学的な性質 として有機質に富んでいて、窒素、リン酸、カリ、石灰、苦土やホウ素、マンガンなどの微量栄養素をバランスよく含まれた土であることが必要なのです。一例を紹介すると、CaとMgの比率( Ca/Mg比 )は4.0~8.0 が適しています。またMgとKの比率( Mg/K比 )は1.5~3.0くらいが良いといわれています。
つぎに 物理・化学的な性質 な性質です。ちょっと専門的になりますが、有効土層(樹が根を張ることの出来る土層)の深さ、水はけ、地下水位、土の酸性度(pH)、硬度(ち密度)など色々な性質が大切です。モモはとくに他の果樹より耐水性が劣るので湿害が発生しやすいのです。排水不良になって通気が悪くなると根が呼吸できなくなります。水はけの良い土地がモモには適しています。PHは5.5~6.0くらい弱酸性がよいと言われています。硬度も大切で、土が硬くなり過ぎると根の成長が妨げられますし、通気や排水が悪くなります。
斎藤果樹園の大きさは、何本植えてあるの?
モモの畑は全部で210アール(a)、約500本のモモの樹が植わっています。主力はもっとも美味しいモモといわれる 「あかつき」 です。これは 中生種 (早稲種と晩生種の中間)で、8月第一週からお盆までに収穫のピークを迎えます。その他には幻の黄色いモモ 「黄金桃」 を早くから手がけています。その他に優しい味で人気のある 「ゆうぞら」 や定番の 「川中島白桃」 もあります。これらは 晩生種 のモモですが、皆さんに出来るだけ長い間モモを楽しんで貰えるために、 「ぎょうせい」 や 「ふくえくぼ」 などの早稲種も含めて全部で11品種のモモが植えられています。
リンゴは80aの畑に約170本の樹が植わっています。 「赤い実の熟れる里」 では気候の関係で日本一といわれる蜜リンゴが採れますので、主力は蜜の入りやすい「ふじ」です。その他に僅かですが、青くて美味しい「王林」や、「ジョナゴールド」など、全部で4品種のリンゴの樹があります。
果樹の陽あたりはどうやって調節してますか?
美味しくて色づきの良い 「赤い実」 が育つためには、成長の間つねに豊かな陽の光を受けることがとても大切です。陽あたりの調節は専門的には 着色調節 と呼ぶこともできます。陽あたりを充分に確保するために、密植を避けて果樹を植えてあります。また、モモでもリンゴでも大切なのは先ず樹の 剪定 です。剪定のときに樹全体が陽を受けやすく枝が張るように、将来の樹の形を考えて剪定します。
例えば、甘いモモが育つためには実が陽を受けやすいように、バランスよく枝を張らせることが大切です。モモは葉の光合成を介して養分を貯えますから、甘いモモをつくるためには豊に繁った葉っぱが必要です。しかし、葉っぱがいっぱい繁るということは、実に当たる陽を邪魔し着色を妨げることにもなります。そこで、葉っぱを繁らせつつ実に充分に陽があたるように、一本一本の枝(実がなる枝のことを 結果枝 といいます)の伸び方まで考えて剪定をおこなうのです。一方モモの樹では幹枝があまり強い陽射しを受けると、日焼けして痛んでしまいます。陽があたり過ぎてもダメなのです。このように色々なことを考えて剪定しますが、これははまさしく 「プロの仕事」 ですね。
いくら考えて剪定しても、樹が成長し実がつけばその重さで枝が垂れて陽当たり悪くなったりしてきます。そういう時は支柱を立てて枝を支えてやり陽当たりをよくしてやります。
そして出荷間近の仕上げの時期には シルバー と呼ばれる銀色の反射シートを樹の下に敷いて、陽当たりを助ける作業も行います。真夏に行うこの仕事は、まさしく汗だくの仕事ですが、綺麗な赤い実を育てるためにはとても大切な作業です。
果樹園運営のポリシーはなに。農薬はつかうの?
ポリシーは明確です。 「安全」 で 「美味しい」 赤い実を皆さんにお届けすることを目指して頑張っています。
安全という意味では、まず害虫対策のための農薬散布の回数を減らすために、コンフユーザーと呼ばれる昆虫の フェロモン剤 を使用しています。もっとも、フェロモンを使っていることを売り物にしている果樹園もあるようですが、そんなことは現在の果樹栽培では 「あたりまえ」 のことなので、 「赤い実の熟れる里」 は安っぽい自慢をしようとは思いません。
でも興味のある方のために簡単にフェロモン(コンフユーザー)の説明をしておきましょう。
これはメス成虫が出す性フェロモン(交配のためにオスを呼び寄せる物質)を人工的に合成したものを果樹にぶら下げて充満させることで、害虫のオスとメスの交信をかく乱して交尾をできなくさせるものです。モモ用に使われるコンフューザーは 「複合交信撹乱剤」 と呼ばれるもので、害虫の モモハモグリガ 、 リンゴモンハマキ 、 リンゴコカクモンハマキ 、 モモシンクイガ 、 ナシヒメシンクイ の防除に有効です。
「果樹に虫はつかないの?」 の質問でもお答えしましたが、果樹栽培は 「病害虫との戦い」 です。残念ながらまったくの無農薬で栽培することは、現状では殆ど不可能です。しかし上述のようにフェロモンを使って散布の回数を減らしたり、 「残留性の低い農薬」 を使用したり、出荷時期には絶対に散布をしないなどの決まりを誠実に守って、安全な果実をつくるように努めています。ですから、 「赤い実の熟れる里」 の桃やリンゴは、皮ごと食べてもらってまったく心配いりません。
斎藤果樹園はどうして「美味しい」モモやリンゴがつくれるのですか?
安全と同時に 「赤い実の熟れる里」 がなにより大切にしているのが 「美味しさの追求」 です。桃では味の王様 「あかつき」 を中心に、最近メキメキと人気の出てきた希少種の 「黄金桃」 や、上品で繊細な味の 「夕空」 、繊維質が豊富で甘い 「川中島」 など、みなさんからの幅広い味の要求に応えられる品種を揃えています。勿論、実が充分な陽を受けれるような整枝・剪定、土づくり、摘蕾・摘花による着果量の調節、樹勢に応じた摘果、有機質肥料を含めた施肥の工夫などさまざまの工夫をしています。
そして、「赤い実の熟れる里」 が美味しい桃をつくれる何よりの自慢は、里の 「気候と風土」 なのです。福島盆地の山裾に位置する 「赤い実の熟れる里」 は、夏冬を通した適度な寒暖の差に恵まれ、美味しい実のなる樹の成長を助けます。またその土壌は果樹に最適の山の土です。盆地特有の盛夏のゆたかな陽差し、高温と乾燥した空気、朝晩の温度差は桃の甘さ(糖度)を増してやみません。このように 「赤い実の熟れる里」 は美味しい赤い実を育むのに必要な要素を全てもっているところなのです。
「美味しさの追求」 はリンゴも同じです。 「赤い実の熟れる里」 ではリンゴの王様の「ふじ」を中心にして困難な無袋栽培をおこなっています。 難着色種 といわれる色を付けるのが難しい「ふじ」を、無袋で綺麗な赤い実に育てるためには結構な苦労がいります。色づけをよくして見かけをよくするためだけなら袋をかけてしまえば良いのですが、それでは本当の甘さ・美味しさが生まれないのです。 無袋栽培 で充分な色を付けるためには、台風による落果や早霜の危険と戦いながら、樹上で充分な時間をおいて完熟させます。落果などによって収量を少々犠牲にしても、美味しいリンゴを届けるために 「樹上での完熟」 にこだわっています。
そして美味しいリンゴの何よりの秘密は、ここでもやはり 「赤い実の熟れる里」 の 「気候と風土」 なのです。「ふじ」が甘味を増し蜜を貯えるためには、秋口からの適度な冷え込みと日中の豊な陽の光、つまり適度な寒暖の差が必須です。盆地気候に恵まれた 「赤い実の熟れる里」 の秋は、日中はときには夏を思わせる暑さ、そして夕方から早朝にかけての冷え込み、これによってリンゴの果肉は歯ごたえを増し蜜をたくさん貯えるのです。
栽培方法の工夫も勿論大切ですが、天が与えたものに勝るものはないのです。里のオーナーの 「スグリのヒロシ」 の口癖でこのコーナーを終えましょう。 「美味しい果物をつくるのに百姓ができることなんて、ほんの僅かなもんだ。ほとんどはお天道様が決めるもんなんだよ」 。全てを知り尽くした達人にしてはじめて語れる、奥の深い言葉ですね。